「のだめカンタービレ」の魅力(2008年5月の記事)
- Keiro Hattori
- 4月8日
- 読了時間: 4分
遅まきながら、「のだめカンタービレ」に嵌っている。テレビドラマが開始される頃、雑誌の書評でよさげなことが書かれていたので単行本の1巻を買ったのだが、その時は、まあまあ、というか続きを購入する気にはならなかった(これでも忙しいので)。テレビはそもそもほとんど観ないので、テレビドラマがうけていても、特にチェックはしなかった。ところが、年末にヨーロッパ編スペシャルがあって、次女と観ていたら、上野樹里などの演技に結構、惹かれ、テレビドラマのDVDと漫画も20巻揃えたのであった。テレビドラマは、これは上野を始めとした出演者のくせ者的演技と随所に流れるクラシック音楽が魅力であるのだが、漫画の方は音が出ないので、その魅力はストーリー性ということになる。
さて、そのストーリー性のどこが魅力的なのか、というと、それは「才能」、そしてその「才能を開花させるための「運」についての物語であるからだ。少なくとも、個人的にはここに惹かれている。「才能」は限られたものしか与えられない。その才能を与えられた者は、その時点では恵まれている、というか選ばれた人間でもあるわけだが、その「才能」は必要条件にしか過ぎず、それを伸ばして開花させるためには、本人の努力、そして運が必要である。ということが「のだめカンタービレ」の話には底流している。のだめの才能を見出し、それをかまって、開花させたのは千秋であるが、実は千秋の才能の方がのだめが千秋を必要とするより、のだめを必要としていた。ということが分かるところくらいから、ストーリーは相当、面白くなっていく。千秋の才能がここまで開花するにはのだめが必要であったし、これから千秋が世界にはばたくうえではのだめは必要不可欠であろう。千秋の母親が、のだめを千秋の「天使」であると言い放つが、彼女はそういうことを見抜いている。そういう洞察力がある母親を持っているという点でも千秋はついている。この千秋が成長していくこと、また、のだめが共に成長していくこと。そして、その成長するうえでお互いが相手に刺激、というか栄養を与えていること。それは、極めて幸せな人間関係であるのではないだろうか。そして、それが男女であればまさに理想的なカップルなのではないだろうか。才能に対して極めて過酷で厳しい峻別をするクラシック界で生き抜こうとするからこそ、そのような才能をサポートする力が特に貴重になるのであろう。それを二人の力で乗り越えようとする話に、結構嵌ってしまっているのである。
というのは、私自身、人間の「才能」に非常に惹かれるからだ。この「才能」好きであるというか、「才能」優先主義的な考えは家内にはすこぶる不評で、冷たい人間だ、世の中には「才能」がない人もいて、精一杯生きてるんだ、と言われたりするが、自分の「才能」を見つけ出し、それを伸ばし、開花させることが、私的には正しい人生だと思っている。私は今でも自分にどんな才能があったのか、あまり分かっていない。そういう才能があるかどうかを知るのに十分な努力もしなかったからだ。ということもあって、のだめカンタービレの主人公達は眩しくみえる。その眩しさも結構、惹かれる理由だ。私はもう年取ってしまったので、しょうがないが、日々相手をしている大学生達は、まだまだ若いので、どんな可能性が自分にあるのかを探る努力をしてもらえたらいいと思っている。のだめも千秋と出会わなかったら、ただのピアノのうまい幼稚園の先生になっていたであろう。それはそれでいい人生かもしれないが、残念でもある。というのは、人を感動させる職業というのは、相当素晴らしいと思うからである。才能を伸ばして、人を感動させる。ミュージシャンという職業の極めて優れた点である。それが出来る才能があれば、それは実現するべきであり、自分はそうではないからこそ、のだめや千秋やターニャには成功してもらいたいと思ったりするのである。まあ、所詮漫画ではあるが、そういうことが素晴らしいことである、ということを理解させてくれる良質で啓蒙的な漫画であると思う。ここが、個人的に「のだめカンタービレ」に鋭く惹かれるところである。
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